教育プログラムの背景

 近年、大量のデータや計算能力の向上を背景として、機械学習や深層学習が飛躍的な進化を遂げ、あらゆる分野で人工知能(AI:Artificial Intelligence)技術が応用されるようになりました。内閣府は未来の超スマート社会Society5.0の実現を通じて世界に貢献し、日本における課題をも解決するために、AIをとりまく教育改革あるいは研究開発、社会実装などの総合的な政策としてAI戦略2019を策定しました。AI戦略2019の中では、2025年を目標年度として、「文理を問わず全ての大学・高専生(50万人卒/年)が数理・データサイエンス(DS)・AIの初級レベルの能力を習得すること」という人材育成に関する具体的な数値目標を掲げており、AI時代に対応した人材育成が全ての大学に課せられることとなりました。さらに、「大学・高専生(25万人卒/年)が自らの専門分野へのAIの応用基礎力を習得すること」を二つ目の数値目標として掲げており,本学のような理系(工学系)大学は地域課題の解決ができるAI応用力を持つ人材の育成も求められています。
 このような背景のもと、久留米工業大学は、AI人材の育成とAI技術による地域課題の解決を目的とし、2020年4月にAI応用研究所を設立しました。AI応用研究所のAI教育支援部門が本学における全学的AI教育プログラムの開発・推進を担っており、本学では2020年度から次世代技術者にとって必須となる数理・データサイエンス・AI教育のための全学共通教育科目「AI概論」(1年後期2単位)と「AI活用演習」(2年前期2単位)を全学必修として新規科目に加えました。本学ならではの教育プログラムとするべく、地域連携科目やインターンシップ等、他科目との連携や学外との連携を充実させています。
 また、2022年3月に採択された文部科学省「デジタルと専門分野の掛け合わせによる産業DXをけん引する高度専門人材育成事業」との連携も図り、「地域課題解決型AI教育」のさらなる高度化を目指しています。


地域課題解決型AI教育プログラムについて

プログラムの趣旨

数理・データサイエンス・AIを活用することの楽しさや学ぶことの意義を理解し学生の関心を高めながら、知識及び技術を偏りなく体系的に修得するリテラシーレベルから、地域課題に対してAIを実践的に利活用する方法を試行錯誤する応用まで一連のフェーズで学べる学修環境を大学内外との連携により提供するためのものです。

プログラムで身につく力

数理・データサイエンス・AIを日常の生活、仕事等の場で使いこなすことができる基礎的素養だけではなく、実践的プログラミング演習を通した技能、問題解決に向かう姿勢・力も身に付けます。本学ディプロマ・ポリシーに基づく、知識・技能、思考力・判断力・表現力、発信力を主体的・複合的に身に付けることができます。本教育プログラム修了者の目指す姿は「AIで地域課題解決ができる地域創生のトップ・中核人材」です。

プログラムにおける修了要件

文部科学省「数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度」におけるリテラシーレベル相当のAI概論、応用基礎レベル相当のAI活用演習をコア科目として位置付け、工学系大学として全学必修としています。それぞれの科目の到達目標や成績評価・基準等はAI概論シラバスおよびAI活用演習シラバスを参照してください。
また、上記のような単位取得とは別に、体系的に教育プログラムを履修しAIを用いた課題解決ができる人材であることを証明するために、大学(学長)が特定の要件を満たした学生に対して修了証を交付します。修了証の交付要件については次の通りです。

基礎 リテラシー Literacy
応用基礎 アドバンストベーシック Advanced Basic
実践 プラクティス Practice
修了要件は以下のPDFをご覧ください。
修了証発行要件

カリキュラムフロー

本学の数理・データサイエンス・AI教育プログラムは、地域連携課題解決型となっていることが特徴です。以下に学びの流れの例を紹介します。1年次に「AI概論」でAIリテラシーを、2年次に「AI活用演習」AI応用基礎力を体系的に習得したのち、早い段階で「地域連携Ⅰ・Ⅱ」、「インターンシップ」や「ものづくり実践プロジェクト」などの地域と連携した社会実装プロジェクトを通して、段階的にステップアップしながらAI・数理DSの応用技術を学び続けることができるカリキュラム連携になっています。

地域課題解決型AI教育カリキュラムフロー

申請書 申請書

地域課題解決型AI教育プログラム推進のための組織

教育プログラム担当部署

AI 応用研究所のAI 教育支援部門が中心となって専任教員を配置し、数理・データサイエンス・AI教育の実施と充実を図っています。また、学内関連部署や関連科目担当者と連携して地域課題解決型AI教育プログラムを実施しています。

教育プログラムを改善・進化するための体制

AI 応用研究所には、全学的な構成メンバーから成る運営委員会を設置し、学生による授業評価アンケートや地域産業界からのアンケート調査も実施しながら教育プログラムの改善・進化を行っています。

2重の自己点検・評価

AI 応用研究所での自己点検内容については、さらに大学の自己点検評価委員会や外部評価委員による点検・評価を行います。これらの2重のPDCAサイクルにより全学的な教育プログラムの改善・進化および着実な実施を行っています。

令和3年度自己点検・評価結果(PDF)

抜粋元:令和3年度自己点検評価書

運用体制

地域課題解決型AI教育プログラムの内容紹介

リテラシーレベル(+)のコア科目「AI概論」では、1年次に共通の全学AIリテラシー教育を実施することにより、学科を問わず早い段階AIが幅広い分野で利用される身近で必須の技術であることを理解してもらいます。本学は工学系大学であるので、「AI概論」でも知識の獲得だけを目指した講義のみとせず、必携PCを用いた演習形式にて実課題に取組み、リテラシーレベルの段階であっても、データ分析・可視化、機械学習(画像分類、近未来予測など)の一連の流れをプログラミング演習により学びます。

応用基礎レベル(+)のコア科目「AI活用演習」では、学生の興味関心を引き出すため、例えば、機械やロボットのAI制御、自動運転、交通量予測、工事現場映像のAI解析、教育現場でのAI応用など、5学科(機械・交通・建築・情報・教育)の専門性に直結した課題解決の例を挙げてDS・AI利用技術について学びます。また、プログラミング演習で学んだAI・数理・DS技術が、実際の地域課題解決に利用できることがわかるように指導しています。さらに、学科混成選抜クラスを設け、地域社会人と協働でAIによる地域課題解決型PBLに取組みます。AI活用演習(選抜クラス)のPBLでは、AIを核としながら関連する専門分野の知識を深めることも、異分野境界領域を学び、知識の幅を広げることができます。

地域課題解決型AI教育コア科目

授業内容・シラバス

AI概論およびAI活用演習の内容についてご紹介します。AI や数理、データサイエンスとは何か、どのような活用があるのかといった初級レベルの知識だけでなく、数学や統計、プログラミングといった自らの専門分野へ AI を応用できる知識が得られるよう設計されています。また地域課題をAI やデータサイエンスの知識を用いて解決する演習によって、地域とのかかわりや地に足が付いた知識の大切さを体験できるよう作られています。

リテラシー AI概論シラバス

応用基礎 AI活用演習シラバス

AI概論およびAI活用演習の現状報告

受講の状況

コア科目であるAI概論およびAI活用演習は全員が履修する必修科目です。
1年次開講のAI概論については、令和2年度及び令和3年度で691名が履修し、613名が修了(合格率88.7%)しています。令和3年度の大学収容定員に対して、53.5%が履修しており、令和5年度には履修率100%を達成する予定です。
また、2年次開講のAI活用演習については、令和3年度、341名が履修し、296名が修了(合格率86.8%)しています。令和3年度の大学収容定員に対して、26.4%が履修しており、令和6年度には履修率100%を達成する予定です。
2科目の再履修者については、春季(「AI概論」)と秋季(「AI活用演習」)に集中講義形式で再履修クラスを開講することで、学び直しの支援を行います。

AI活用演習の選抜クラスは、令和4年度は2年生の63%の学生が希望する人気のクラスとなっています。

教育プログラムの改善
(学内からの視点)

AI 概論履修者に向け当授業の難易度、負担、分量を 5 段階評価のアンケートを行いました有効回答数 288)。その結果、ほぼ 5 割の学生が「適切」と答えました。また当授業を通して新しい知見が得られたという質問は 9 割以上の学生が「得られた」と答えました。一方、否定的な意見では、特定の学科において AI の必要性、AI のことを理解するメリットに疑問を持つ声があったため、これらをより伝える授業計画を策定しています。

報告レポート

AI活用演習選抜クラスについてのアンケートによる教育効果検証は、以下の報告をご参照ください。受講生の社会人基礎力が有意に向上したことが確認できました。

AI活用演習選抜クラスの取組報告(オープンアクセス・リポジトリ)

地域との連携・産業社会からの視点

地域企業と打ち合わせを行い、地域企業のかかえる問題や AI で解決できそうな課題をヒアリングしています。これにより、地域の課題をタイムリーに吸い上げ企業との協働を通した実践に活用していきます。また、当教育プログラムの内容・手法について地元企業数社にニーズに合っているか、将来性はあるかについてヒアリングを行いました。「当カリキュラムを学んだ学生を積極的に採用したい」「自分が受講したい内容」「実習も含んだプログラムは十分な内容」といった肯定的意見を頂きました。一方で「AI プログラム実習ではモジュールを利用することとなるが、仕様等は付録を充実させる必要があるだろう」という意見もあり、今後付録 (教材) の充実が必要であると考えています。

地域企業のアンケート結果

外部評価委員のアンケート結果

専任教員による授業実施・TA/SAによる支援

AI 教育を円滑に推し進めるため 2020 年 4 月より AI 応用研究所所属の教員(小田まり子教授)を招聘・配置しました。
また、PCサポートセンターに常駐する教育研究コーディネーターによるPCスキルや授業の支援、先輩学生SAが演習をサポートしています。TA/SAはG検定や基本情報処理技術者試験の合格実績を有しています。
さらに AI 教育の充実を図るため、2021 年度より非常勤講師(佐賀大学名誉教授 新井康平 氏)、特任助教(呉濟元 氏)を迎え入れました。

令和4年度はAI活用演習選抜クラスPBL担当教員も12名となり、学科横断の教育スタッフを着実に充実させています。

AIを用いた地域課題解決の例

例1:久留米絣に関する課題解決(地域の文化、伝統の継承発展)

AIの画像分類技術により、久留米絣の風合いに対する統一的な基準を決めたい。AIの近未来予測により、久留米絣の数分後の柄のずれを事前に予測したい

例2:地域特別支援学校の課題解決(教育・SDGs)

学習者の表情認識、骨格認識、視線抽出から、集中度、理解度、満足度を抽出したい

例3:美容室における課題解決(ビジネス応用)

AIの個人認証により無人受付、売上予測したい

例4:有明のりの等級判定(特産物の品質保証)

有明のりの等級をAIで判定したい

選抜クラスによる実践課題のテーマ(R3年度)

成果発表動画については学生のプライバシー等に配慮し、学外の方については所属等を確認後の公開としております。閲覧希望の方は本学総務課まで遠慮なくお問い合わせください。

バーチャル海外留学(AIエンジニアコース)

久留米工業大学の海外協定校である 「セントラルワシントン大学」(CWU) のバーチャル留学集中講義を実施しています。このバーチャル海外留学は「久留米工業大学」と「セントラルワシントン大学」が共同で開発した国際社会で貢献できる AI 技術者育成のためのオリジナル語学研修プログラムです。次世代社会を共に支える海外の若者や学内の異なる学科の学生との交流を通して、人々の考え方の多様性や共通性を理解し、互いに良い影響を与え合い、成長できる!それが、久留米工業大学バーチャル留学プログラムの魅力です。

R3年度参加募集概要

スケジュール

セントラルワシントン大学AIエンジニアコースについて

教材紹介

研究開発事例

AI概論の授業では、AIを応用したシステム開発に取組む地域産業界の社会人が実際の現場でどのようにAIやデータサイエンスが活用されているかについて講演しています。授業でご講演いただいたた株式会社アイナックシステム様におけるAI活用事例の動画をご紹介します。

動画を見る

G検定対策

G検定はディープラーニングの基礎知識を有し、適切な活用方針を決定して、事業活用する能力や知識を有しているかを検定する試験です。この試験対策として、学生の皆さんへ教材を貸し出しています。

オンライン学習プラットフォームの活用(Udemy)

変革スピードが早い情報通信分野の実務的な学びの提供のためにオンライン学習プラットフォーム(Udemy等)も一部の学生が利用できるようになっており、より学生に個別最適化された教育機会の提供を増進します。

地域課題解決型AI教育プログラムのまとめ

本学の数理・データサイエンス・AI教育プログラムは、地域課題解決型となっていることが最も大きな特徴ですが、この他にも様々な工夫を設けています。以下の図では、地域課題解決型AI教育プログラムにおける取り組みについてまとめています。本学学生だけではなく、学外の方でも興味・関心のある方は、ぜひ本学AI応用研究所までお問い合わせください。

地域課題解決型AI教育概要図